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名探偵ジョニー&リンダ

名探偵ジョニー&リンダ

 長い闘病生活から復帰した夏山和也は、突然畑を始めた。畑と言っても小さい畑だが、体力が戻ってない彼には相当キツかった。それでも彼は畑を続けた。
 ある春らしい暖かな日、夏山は玉葱を収穫していた。そこへ貸農園オーナーの南が来た。
「夏山さん、前に畑半分で十分て言ってたよね。今、半分でもいいから貸して、て言う人が来てるんだけど、話してみる?」
「是非、お願いします。」
 南について事務所へ入ると、待っていたのは若い女性。これは夏山には意外だった。
 この農園で見られる人は、ほとんどが老人か子供連れの40代夫婦で、夏山のように30才なりたての独身男はまずいない。
 ましてや彼女はどう見てもまだ20代後半。しかも夏山好みの美人。キュートなボーイッシュ。
「玉葱の収穫が今日終ります。ちょうど半分が空くので、そこを使って下さい。玉葱、半分差し上げます。」
「うわあ、有り難うございます。私、全くの初心者なんです。よろしくお願いします。」
 突然始めたくなったのかな。俺と似てるなあ。夏山は秋風真夜と名乗る彼女にますます好意を持った。

 2人で楽しく収穫を終えた。玉葱を分け、それぞれの車へ運んでいる時だった。秋風真夜の方を見た夏山は、足が止まり、息を飲んだ。
 突然男が彼女の背後に現れ、何かを当てたのだ。彼女は声も出さず崩れ落ちた。
 コンマ数秒で我に帰った夏山は直感した。
「次は俺が後ろからやられる。」
 後ろも見ずに、いきなり後ろ回しげりを2発連続で放つ。やはりそこにもスタンガンを持った男がいた。
 1発目は手元にヒット。スタンガンが吹き飛んだ。2発目は首元にヒット。男が吹き飛んだ。すぐに秋風のもとへ駆け寄った。男たちは逃げて行った。
「あなた、凄いわね。」
「大丈夫?」
「大丈夫よ。あの技は何?」
「カポエイラ。あいつら何?」
「えっ?あの格闘技みたいな踊り?」
「うん。いや。踊りみたいな格闘技だ。あいつら何?」
「ねえ、あなた今お仕事は?」
「何だよ、こんな時に!あいつら何?あんた何者?」
「そうね。またやつら来るかも。場所を変えましょう。」
 夏山は秋風を抱えて車に乗り込み、畑を離れた。
 
 秋風は車の中でポツポツ語った。彼女は私立探偵だった。
「あいつらは金で雇われた素人よ。油断したわ。まさかこんなに早く気づかれるなんて思わなかった。今はこれ以上話せない。仲間になってよ。そしたら全部話すわ。」
「さっきの格闘はビギナーズ・ラックだよ。カポエイラは病気した時にやめた。あんな動きが出来るなんて自分でも驚いてる。そもそもカポエイラは人に当てない。人を蹴ったのは初めて。でもな、正直言って助かる。病気中に休みを使い果たして退社するはめになって。今はバイトで食いつないでるんだ。」
「ようこそ!」
「でもな、俺、夢があるんだ。仮に探偵になったとして、永遠には続けられない。」
「どんな夢?」
「畑で取れた有機無農薬野菜を使った小料理屋をやるんだ。」
「私、役に立てるかも。マクロビオティックのケーキやクッキーが得意なの。白砂糖を使わない健康志向よ。」

 2人は事務所へ入り、詳細を積めた。早速バイクが貸し出されることになった。
「うちで探偵続ける限り、自分の物のように使っていいわよ。」
 夏山がこの日使ってた車は収穫のために友人から借りたもので、彼には交通手断がなかったのだ。
「ありがとう。スーパーカブか。原付の中では一番走るだろな。でも原付ならベスパがいいなあ。」
「松田優作?バカ高いってば。しかも中古しかないし。」
 続いて、彼女は今回の仕事のあらましを話した。
「今はこれ以上話せない。クライアントもまだ内緒。ごめんね。追々話すわ。」
 それゃそうだろな、と夏山は思った。
 秋風は話題を変えた。

「ところで、この仕事で本名は使わないでね。何がいい?優作かな?」
「いや。コルトレーンがいいな。」
「呼びにくいなあ。テナーサックスのジョン・コルトレーンね。ジョンでどう?」
「まるで犬だ。名探偵秋風、相棒は名犬ジョン、鼻が利くやつ、て感じ。」
「じゃ、ジョニーは?」
「いいね。」
「OK。わたしのも決めて。」
 夏山は少し考えて、「リンダ」を提案した。秋風はそれでいいと言った。彼女はリンダ・ロンシュタットのリンダぐらいに思ったようだが、本当は、カエターノ・ベローゾの名曲「ボセ・エ・リンダ」のリンダ。「君は可愛い」という意味。
 それはまだ今は話せない。内緒。

 日曜の畑はとても賑やか。敵に襲われる心配もない。
「ねえ、種の袋には『すじまき』て書いてるわよ。」
「ばらまきでいいよ。」
「えっ?いいの?」
「その方が間引き菜をたっぷり楽しめるよ。出荷するとか、コストを求めるなら別だけどね。」
「ふーん。私、水汲んでくるね。」
「いや、水は要らない。」
「えっ?」
「まず種をばら蒔いた辺りに土をかけて。」
 2人それぞれスコップで。
「次に、足で踏み固める。」
「えっ?いいの?」
「うん。踏み固められた土が、毛細管現象を起こして、水を吸い上げる。」
 夏山の講釈は続く。自然の力に惚れ込んでいるのだ。
「南さんの農園は土がいい。山に挟まれた川沿いの平地で、元々水も栄養も微生物もたっぷり。その上ずっと有機無農薬だから、とんでもなくいい土になってる。日本一だぜ。」
「ほんとねえ。スコップ一回ミミズ3匹だもの。」

 そこへ南が駆け寄って来た。
「おーい、あったよ。君たちの言う通りだ。一体ここで何が起きてるの?」
「はやっ!踏み終わるまでちょっと待って下さい。」と夏山。
「あれれ。二人で作業してるね。」
「ええ、私、素人なので。」と秋風。
「僕たち、仲間ですから。」と夏山。
 彼らは南の事務室へ移動した。

 秋風は南に概要を説明した。非合法活動を行う組織のメンバー数人が南の農園で畑を借りている。組織の活動なのか個々の趣味なのかは分からない。メンバーと目的を探ってほしい、という依頼を秋風は受けた。
 依頼を受けた日に南に電話して、その日に畑に来たのに、スタンガンで襲われた。予想通り盗聴機も見つかった。組織的活動に違いない。
「あやしい人、思い当りませんか?」
「あいつらかなあ。」
「はやっ!」

 事件はあっさり解決した。南が言ってた怪しい連中とは、まさにスタンガン2人組だった。締め上げたら簡単に白状した。
 畑を楽しんでいたある日、組織から声をかけられ、雇われた。少しずつ畑の土を組織に渡す。替わりに別の土を入れ、有機肥料も入れ、耕して、いい土を作る。誰かに気付かれた時は、スタンガンで襲って脅しをかけて、口止めする。

「サザン!昼ごはん持って来たよ!」
「サンキュー、ジョニー!」
 南の事務所の横に「ジョニーとリンダの玄米菜食カフェ」がオープンした。南は2人からサザンと呼ばれている。
「本日の漬け物は、厚揚げと人参の味噌漬け。自家製味噌が凄いよ!本日のデザートは、カボチャとサツマイモのタルト。リンダのケーキは凄いよ!」
「なあ、ジョニー。」とサザン。
「あいつら、いい奴らだったよな。」
「何で?」とジョニー。
「だって、せっせといい土を作って、行き先は悪い土の畑だよ。いい土が混ざった悪い土は、微生物の働きで全体がいい土に変わる。それならうちの土も本望だ。組織が怖くて逃げたらしいけど、そこまで悪人かなあ。」
「リンダがやられたんだぜ。悪人だ。」
「それはそうだ。でも、自分たちで畑を耕してた。ならば彼らも農民だ。農民に本当の悪人はいない。」

 ランチの時間帯が終わり一息ついた頃、ジョニーはリンダに切り出した。
「あの事件、クライアントは誰だったの?」
「そうね。そろそろ話そうと思ってたの。」とリンダ。
「政府の情報機関よ。日本版CIA、てとこね。縁があって時々依頼が来るの。」
 大体は察しが付いていた。次はジョニーが告白。
「俺も秘密があったんだ。今流れるこの曲は、カエターノ・ベローゾのボセ・エ・リンダ。これはね…」

 その頃、サザンの事務室に、ある女性が現れた。
「あれ?山川さん久しぶり。どうしてるの?畑、かなり荒れてるね。」
「困ったことになってるんです。最近、南さんが探偵の元締めになったと聞きました。助けて下さい。」
 サザンは苦笑した。
「私はただの友達ですよ。」
 その後、にっこり笑って言った。

「探偵は、カフェにいる。」

 2人でカフェへ行くと、扉に「すぐ戻ります」の札。中へ入ると、もぬけの殻。サザンは窓から外を見て、大きな笑顔を浮かべた。畑作業中のジョニーとリンダが、以前にも増して仲睦まじく見えたからだ。

「探偵は、畑にいる。」

第一話 完

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